一皿01。アジ。あじ。鯵。

鯵は味である。名が示すように、鯵は旨い。

かつて、海 、肴、ゴルフとヨットが待つ小さな居を、相模湾に突き出た真鶴半島の崖淵に持っていたことがある。

この半島は、多くのハイカーが森林浴を求めていくほど、人の手がつかない豊かな自然林に覆われおり、この肥沃な土壌に降る雨が、森の滋養を相模湾に注ぎ込み、豊穣な海に育てあげている。

この漁場は、半島に居を構えた別荘族やハイカーたちを喜ばれる多くの魚料理の店を産んだ。そうした多くの料理店中で、私が食堂代わりにしていた福寿司が駅前にある。

その店の若い無口な店主は、地魚しか相手にしない。

毎朝早く、真鶴港の魚市場で、時には伊豆半島まで足を伸ばして、丁寧な仕入れをする私のお気に入りの見事な料理人である。

彼が用意し勧めるネタに外れがない。特に、夏場に旬を向える鯵はいつも見事で、一本釣りの真鯵、沿岸に住み着く鯵は、刺身、握り、塩焼きといずれも旨い、絶品であった。

真鶴の鯵で、外してはいけない鯵があと二つある。

その一つが、仲間たちと相模湾にヨットを遊ばし鯵を釣り上げ、用意してきたネギと青紫蘇の葉を入れて、その場でたたき、生姜醤油で食べる鯵である。

鯵は、鮮度が落ちたらもうダメなのだ。

もう一つが、真鶴に通うたびに駆けつけるゴルフ場、湯河原カウンツリー倶楽部で、必ずビールと共に食べる鯵丼である。癖になるほどに、兎にも角にも旨い。

その小さな住居を外してほんの数年しか経たない。まだ浅い記憶から、時々はみ出す幸せな味・鯵である。

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