散歩道にはいろいろな驚きが転がっている。

いつも歩いている道だが、時に反対側の道を歩くと全く違った出会いをする。今朝の帰り道、なんの気まぐれか,いつもの道を挟んだ反対側の道を歩いた。この時間になると世間は漸く目覚め、少し動きが出だす。
この道添えには、昔、その名を馳せたライブハウスあった。だが、その跡地には今、乱立気味との観光客相手のホテルが開店している。
そんなところから、ほんの20メートルも離れていないところに、小さな劇場が開場した。毎朝、あぁ、あのライブハウスが移転しての開場かと気も止めずにいたが、今朝、ひょいと覗いてみる気になっての散歩道の変更である。
こんな早朝にも拘らず、道側に面したガラスドアが半開きになっていた。その横に、小さな看板がありその面には、チラシが貼られていた。目を近づけて漸く読める程度の小さなチラシである。
あの往年の大女優、草笛光子の一人芝居が今、掛かっているようである。フランソワーズ・サガンの“愛のゆくえ”の朗読劇である。
これは、少し様子が違っていた。ライブハウスの移転ではないようだ。歴とした小劇場のようである。
そんなことを思いながら、看板を眺めていたので、少し長めの立ち寄りになっていたようである。その半開きのドアから一人の女性が顔を出しだしていたのに気づかず、数分たっていたようだ。
ひょっと顔上げると、その女性と目が合った。そうすると、彼女が待っていましたと言わんばかりに、唐突に話かけられた。
この女性、この小屋のオーナーであり、今かかっている一人舞台のプロージュスサーの白樹栞と名乗りを上げる。
暇な私、ついつい長話しとなり、いい席を用意するとか、いろいろな話を聞いているうちに、今晩の切符を買うはめになっていた。さらには、その芝居小屋の会員になるのも、そんなに時間も要らなかった。
その夜、確かに良い席での観劇となり、さすが大女優草笛光子、どんどん引き込まれる。一瞬、彼女が消え、若い女性が舞台にいた。見事に演じたのである。
観客の頭も動かない。皆、まっすぐと舞台を見据えている。さすがに、大女優である。あっと言う間に幕となった。
大いに盛り上がり、大いに満足した観劇となった。少し、白樹栞さんにお礼と思い挨拶を終えて帰りかけたが引き止まれ、一階にある、こじんまりしたワインバーで彼女と一緒に杯を交わすハメになる。根強いファンに囲まれた草笛満光子に軽い紹介すら受けたのである。
散歩道に転がっていた愉快な幸せの出会いである。
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