この変化の早い時代、とんでもない落とし穴がある。
日比谷公園を散歩した折、喉の渇きを覚えテニスコート脇の売店で、水のペットボトルを買い求めた。いつものようにクレジットカードを差し出した。しかし、店主は現金での支払いを当然のように要求した。
ここは東京の中心地、海外からの観光客に溢れる皇居や銀座に隣接する日比谷公園での出来事である。
よく見ると、その店、見覚えのある店。その店の裏側にあるコートで、何度かテニスをした大昔のその折から、その姿を少しも変えていない。ただ、長い時の流れに身を任せそのままの、見違える心配のない昔のままの姿での店である。
この夏、旅の途中初めて立ち寄ったモスクワ、その小さな公園でペットボトルを買い求めたが、クレジットカードの支払いが何の違和感なく受け入れられた。
そのことが、ふっと思い出され少し考えさせられた。
当然、モスクワでの通貨は馴染みの薄いルーブル、出来れば余計な現金は持ちたくない通貨、訪日者にとっての円と同じである。
モスクワをよく知る友人からの助言に従い、モスクワ空港からホテルまでのタクシー代金3、500ルーブル、キャシュでの支払いを要求されるとのことから、空港で5,000ルーブル、少し小金を手元にと思っての少し多目の換金である。
初めてのモスクワ、街好きの私、とにかく歩き歩きの数日であった。
ぶらっと、散歩で立ち寄った公園でのペットボトル一本もクレジットカードで済む。朝からホテルを出て、鼻を効かせて見つけたカフェでの朝食、ランチもディナーのレストランでもクレジットカード。当然、バレー舞踊の入館料、博物館、美術館も、それに壮麗豪華な地下鉄の切符もクレジットカードで用が足せた。
そんな数日を過ごして、その手元に残ったルーブル1、500は手付かずである。そのルーブル、漸く、アムスに向かう空港での軽い食事で、ようやく使い果たしたのである。
そこで、モスクワのキャッシュレスの徹底ぶりの話をしてみたい。
驚くことに、毎朝通ったカフェでの給仕へのチップの支払いが、俄然面白い。当然ながら、食事代金はクレジットカードでの支払いとなる。
その給仕たちへのチップの支払いが,実に愉快なのである。
給仕たちは各自のQRコードを持っており、それでチップを支払う。テーブルにQRコードの乗ったカードが、置かれている。これでは、気づかぬ客はいない。しっかりと、はっきりと支払をさせる仕組みなのである。
来年には、ここ東京でオリンピックである。訪日旅行者にとつて、馴染みのない日常では不要な“円”。彼らが東京のド真ん中の公園で喉を乾かせ水を求めたい折、どうするのか。
それに、もう一つ心配なのが、美術館、博物館での支払いが現金のみとのところが未だ、数多くあることである。
”キャッシュレス決済週1回以上利用者6割”(JCBの調査)となんと日本とのんきな、偉大な田舎国であろうか。
国境を超えるデジタル通貨 “ビートコイン”は登場わずか10年で、銀の時価総額の5分の1の16兆円とか。そう言えば、かのケインズは ”バンコール”仮想通貨 という超国家的通貨を提案していた。 既に、そんな昔にもその芽があったのである。今、それが、フエスブック仮想通貨 “リブラ”がキャスレスという型で実現されようとしている。
キャシュレスの概念すら古くなるそんな時代なのである。
この歳とった私にこんな話をさせる観光立国を標榜する日本は、どうやって世界と競っていくのだろうか。
そう言えば、日比谷公園は、オリンピックの旗振りのかの知事の管轄下、美術館、博物館もそのほとんどが公国立、自治体、観光庁が少し動けば解決する。もう、既に手は打たれているのであろう。
“おもてなし”も、先ずは、こうしたインフラの整備がなければ、 “おもてなし”も言葉だけのひとり歩きとなる。
そんなことでないことを、溜息混じりに祈るのである。
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