一旅07。英国と道。

車旅の良いのは、その自在さにある。
この夏の車の旅は、そんな自在さがいかんなく発揮さる旅となった。

ロンドンでの短い滞在を終え、いよいよ英国10日間の車の旅である。先ず、次の滞在先のオクスフォードに向け早朝に出発。2時間ほどハィウエイを走らせ、早々に下り、牧草地が見え始まる小さな村に至る道に入る。

その道の両側には、色濃く茂った樹々が道を覆い被さるよう繁っている。そうした樹立の先には、英国紳士たちのカウントリー・ハウスが見え隠れしている。

そんな道を走らせた10分ほどの間に、犬を従えたジャケット姿の紳士の散歩姿に出会い、大きな音を立て走る農作業のトラクターや旅人の車ともすれ違う。さらには、迷い出た数匹の羊に道を譲る。

家々が途切れ始めると、その先には、両サイドに広い牧草地が広がる、気持ち良い道と繋がっている。

日本では決して見かけることのない看板が、その道に沿ってある羊の放牧場の入り口に掲げられていた。

    Lambing and Nesting time.
    Please keep yourself dog on a leap.

    羊たちが、分娩し巣ごもりしています。犬たちを
    近づけないでください。

この道は、家畜の道、散歩の道、農作業の道、旅行者の車の道をも兼ねる、賑やか豊かな道なのである。

その地で生活をするもの、そうして旅人をも大切にする律儀な国の道なのである。進歩も近代化も巧みに飲み込みながら、そこに住む人々の生活の道をもちゃんと残しているのである。

人がよければ、車には不都合。車によければ、人には不都合。自転車を薦めながも、邪魔扱い。そんな、一つに良くすると片方を忘れる。そんな乱暴な道作りの実状の日本が情けなく思えてくる。

どうやら、英国の田舎道は、大まかには、

         ハイ・ウエイ 車の道
   ブライドル・ウエイ 馬を同伴できる
   バイ・ウエイ 車両も通れる

と、決まりがあるようである。


そうした道の中に、

            “パブリク・フィト・パス”

という歩行者専用の道、英国らしさを示す見事ななんとも羨ましい道がある。

マンチェスターから、湖水地方を抜ける街でその道、パブリク・フィト・パスを見つけ車を降り、その道を歩いてみた。湖に沿い走るその道は、大きな館の庭園の中を走り何軒かの庭先を家人に見られながら、歩き抜けるそんな道であつた。

英国人は、ウオーキングに80%以上の人が週一度は出かける。新鮮な空気と自然の風景を楽しみ、飼い犬の運動不足を解消させ、子供達の冒険心を養うためである。

そうした人たちの散歩道を、公共の道、人の家の庭、牧草地が、自由に道として歩く権利が保証され、開放されているのがフットパスである。

この旅で、牧草地の柵を越え、山道を、森の中の道を歩き抜けて行くハイカーたちの姿それも親子のハイカーを見かけ、何度かは私たちも車を捨て彼らに従おうと思ったものだ。

一夏、こんなカウントリー・ライフを過ごし退屈にじっと向かい合う。そんな気持ちを首肯する自分がいるのに気づき驚く。

こんな気持ちにさせてくれる幸せな旅になったのである。

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