一旅08。妖精たちとゴルフ。

この夏の旅、色々と楽しみにしていたことがあったが、妖精との出会いもその一つ。なんと、街中で、それを果たすことができた。

アイルランドの西南の海辺の街、既に初冬かと思わせる冷たい雨が降る、ケルト文化を色濃く残している港町ゴールウェイでのことである。

ゴルフ場で、ルールブックに載っていない、心あるプレーヤー達の間で、密かに守られている約束ごとが一つある。

深いラフの中、林の中に転がり込んだボールは、妖精たちのボール遊びのもの、決して探したりしないとの約束である。

夕暮れ時、だれ一人いないフェアウェイに大きな影を落とす。それを、みはらかった様に、妖精たちが緑色のユニフォ−ム姿で林の奥から姿を見せ始める。いよいよ、賑やかな妖精たちのボール遊びが始まるのである。

それに、この約束ごと、なかなか、意味合い深いものがある。

フェアウェイは、故あって短く刈られ大事にさられる芝一種だけの特殊なところ。だが,林の中やラフと呼ばれる地には、背丈がまちまちの多様な植物が生息している。それら雑草一本一本にも名があり、可憐な花をつける。また、そこを棲家にする虫たちがいる。

その多様な草を、ラフ、雑草と呼び、ミスったショットのボール探しに、粗末に扱う。そんな雑草一本一本に心配りこそが、いろいろな多様性を尊ぶ心が養われる。ゴルフとは、そんな心をある者たちだけがプレーすることが許されるスポーツなのである。

仲間同士への心遣いと同時に、こんな心がけが必要なスポーツなのである。

私は今、睡魔に襲われるまで、寝床でゴルフ場作りを楽しんでいる。

そのゴルフ場のラフと林の中は、季節季節で可憐な花を咲かす、草花で埋め尽くされている。ボールを追うだけがゴルフではない。一気に心地よい散歩にもなる。

眠りが来るまでのひと時を、そんな愉快なゴルフ場作りで楽しんでいる。

時には,先を進むだけのゴルフから,ふっと、今見事なショットを放ったティーグランド振り返ってみるが良いのである。日ごろ見慣れた風景が新しい風景になって迎えてくれる。

一打一打を金に変えるプロではない我らのゴルフ。

気まぐれな玉転しの遊びである。林にラフに落ち込んだ球は,喜んで、妖精たちのボール遊びにくれてやるのが良いのである。

最終ホールを終え,今日の仲間たちにありがとうと頭を下げる。その折、3番ホールで林においてきたボールで、妖精たちが遊ぶ姿を思い浮かべれば,なんとも豊かな1日なることであろうか。

その宵の湯上りのビールは、美味しい幸せなビールになることが約束される。

余談であるが、私は、この約束ごとが、同行者の善意あるボール探しと、キャディーの鋭い目配り故に、守ることが叶わないでいる。

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