一幸27。日本の神の悪戯を楽しむ。

今朝、美しい女人に出逢った。

雨のパリ。
ヘミングウェイは街角のカフェ、ル・セレクトのいつもの椅子に座り雑記帳を取り出し、小説の構想を練り始めた。その時である。雨に濡れながら走りこんできた女性が目に入った。彼は雑記帳にペンを走らせた。

  あぁ、美しい女よ。
  私は出逢った。美しい人。
  あなたはもう、私のものだ。
  そうして、パリも私のものだ。

さすが、パリである。パリではカフェですらも粋な出逢いを用意し、劇的な演出するらしい。

さて、である。

私の毎日と言って良いほどに通うカフェでも日本の神は時たま、いたずらをしでかす。突然、美しい人を登場させる。パリのカフェと同じ奇跡をもたらすのである。

美しい人の登場である。

その瞬間、一瞬カフェの空気が一変する。その女性が一人での登場であれば良いのだが、多くして決まってくだらない男と一緒である。この時の観衆の反応は様々である。羨望と嫉妬の入り混じた異様な目線がカフェを交差するのである。

仮に、一人での登場であれば、さてどうなるか。
  “あれも一生これも一生”
と勇敢に争奪戦に名乗りを上げて参加するか。

だが、我ら既に戦線から離れて久しく、装備している兵器も時代遅れのロウテク。正に老兵である。間違いなく、四ん這いになり逃げ出す羽目となることは目に見えて明らか。

  “うっかり惚れれて触ればトゲで血が出るバラの花”

ここは、ヘミングウェイにならい、
  “あぁ。貴女も東京もすべて私のものだ”
と心に書き留めことで終えるのが賢明である。

この歳の我らの幸せは、これに尽きるのである。

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