一景09。冬雀。

北の丸公園は、一歩一景ほどではないが、いろいろな自然を巧みに取り込みながらも、庭園らしい落ち着きのある公園に仕上がっている。

春には、見事な桜を咲かせるお堀端の堤に囲まれ、その下を流れる小川は、鴨が遊ぶ池に豊かな水を注ぎ込む。その池に沿って明るい芝の広場が広がり、その周りを間隔よくベンチを配置した散歩道で囲む。その後背には、小鳥たちの囀りが聞こえる多種の樹々の林が広がっている。

そんな自然豊かな公園である。

この季節のこの時間、この公園で散歩を愉しむ者は少ない。歩を止めベンチに腰を下ろすと、どこからとなく数羽の雀たちが纏ってきた。餌の催促である。

この雀、カラスや鳩などより遥かに多かったが、今の家屋では雛を育てる軒下の隙間のなく、餌はカラスや鳩に奪われ驚くことに8割も減ったという。

日常の風景の中にいた雀がすっかり姿を消している。

今日の雀、夏場の雀と違い見た目にもはっきりとふっくらしている。俳句の季語では、冬の雀のふっくら様を見て取り“福来雀”と呼ぶらしい。

寒い今朝、羊毛をふくらませ私に纏う雀たちに、寒さに縮んだ手でポケットから急ぎ出しパンくずをばら撒く。福を招来させる鳥は恐もせず、懸命さすら感じさす無心さで啄ばみはじめた。

雲から顔を出した冬の太陽が一瞬、餌を啄ばむ厚着の雀たちに暖かい陽を浴びかせた。春待ち遠しい、幸せな一景である。

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