一皿10。早矢仕ライス(ハヤシライス)。

また、150年の歴史を背負う名店が消えていった。

この創業1871年の“すき焼きの老舗江知勝は、湯島天神から春日 通りを下ると直ぐにある。この店、森鴎外、夏目漱石などの多くの文豪に愛された店だったが,この令和2年の1月に150年の歴史を閉じた。

私も、この店をよく知るゴルフ仲間に連れられ、その牛鍋を囲んだことのある店でもある。この店で供されるのは、牛鍋(すき焼き)。この牛鍋、牛肉を食べることは文明開化の象徴とされ、真っ先に広まった、いわゆる洋 食の走りである。

この洋食という料理、よく考えてみれば見事な料理。

西洋の食材や調理法を日本風に工夫し、それも、フレンチのようにそれ単体で食べのではなく、ご飯と一緒に食べるように工夫されている。いわゆる、ご飯がすすむ料理。日本だけで独自に発達した西洋風の料理、洋食である。

そうした洋食にはいろいろあるが、私の好きなもの一つにハヤシライスがある。 

友は池波正太郎も愛した銀座(煉瓦亭)が好きというが、私は由緒正しい(丸善)を主張する。

このハヤシライス発祥説には幾つかある。

その一つが、“Hashed beef with Rice”がなまって「ハヤシライス」になったというのである。 だが、本好きの私が納得しているのは、福澤諭吉の門下生・丸善の創業者、早矢仕有的の考案の料理であるとする説である。 

名前の “早矢仕” ハヤシを頭につけハヤシライスと命名したとする説である。私は、この説に、断然、賛同する。この説には、早矢仕有的という人物の物語が味に深みを増す。 

今日のランチは、ハヤシラスと思い立って丸善に出かけた。

いつもは丸善は、東京駅丸の内側に新設された本店に行くのだが、やはりここは、日本橋の丸善、MARUZEN cafeに出かけた。炒めた玉ねぎと数種のフルーツの甘みと酸味が加わった褐色のデミグラスソースが、薄切りの牛に絡み、熱いご飯にかけられている。豊かな野菜の盛り付きと一緒に食す。

早矢仕有的が 体の弱い子息を気づかい、思いついた滋養ある料理がこの料理のルーツと言うが、その滋養はひとまず置くとしても懐かしいいい味をしている。

久しぶりの懐かしい幸せな一皿であつた。

コメントはこちらから

コメントの表示が遅くなる場合がございます。