一幸48。戻りたくなる時間。

海際のホテルで荷を解いた

対岸の山影に沈む眩しい夕陽が海を渡り、ベッドに投げ出している疲れた体に、窓越しの柔らかい陽を投げかけてきた。

そう言えば、眠気の冷めきれない体を横たえているベッドに、眩しい朝の陽が忍び込んでくる。そんな柔らかい陽だまりで目覚める。そんな幸せがこの頃すっかり無くなった。

朝陽を浴びて目を覚ます幸せは、寝床でぐずぐずできるそんな時の延長にあるもののはず。それといった用事のない私が、そんな幸せを放棄して、さっさと床を離れる。

全く、合点の行かない話である。

どうやら、我が身の全てにエネルギーが不足し始め、それに連れの早起きなのだろうか。そうであれば、合点が行く。

だが、深層に居座り始めた早起きを急かすそんな体と心を、断ち切れという自分が一方ではいる。

体を思い切り痛め疲らせ泥んこのように寝込む。そうすれば、朝陽がベッドに射し込み目覚めるまで、体がベッドでのぐずぐずを欲しがるはずと、色々とやってみた。

手始めに、夜の始めを現役時代の8時戻してみる。それに、友との酒の場ながらお互いに、想い出話と孫や体の話を厳禁し、控えていた酒量を若い時代の深酒に戻す。しかして、帰宅時間が深夜に戻り、ベッドに入る時間が12時を回ることになる。

当然、もう一つは、カートでのゴルフプレーを厳禁し、すたすたと歩きゴルフに戻す。そんな日には、サウナでの時間をふんだんにとり、徹底してみる。さらに、ベッドサイドで眠気を誘う俳諧などの本をさっさと片ずけ、推理小説に戻し眠気を追い払う。

やはり、全ての試みが無駄であった。

我が身の深層には、若い時とは違うせわしさが居座っており、早い目覚めは既に常態となっていた。今朝も、朝陽が上がる前には起き上がり、さっさといつもの道を歩き出している。

ビル影から漏れてくる陽が、樹々を照らし、今朝のいつもの散歩道を清々しいものにしていた。

寝床でくずぐずしては、決して出会うことのできない朝陽の眩さを全身に浴びる。体が喜ぶ、そんな幸せな散歩となっていた。

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