陽の陰りが見え始めた。
ハイウエイの先に広がる里山の麓に、ぽつんと佇む一軒家に暖かい燈が灯った。SAに入り宿の用意をする時だ。今宵は海沿いに長く伸びた典型的な地方都市。
このクラスの街になると昨今、シティーホテルはすっかり姿を消し、新しいビジネスホテルに取って代わっている。
寝るだけの宿。少し大きめのクイーンズサイズのベッドがあれば十分。
だが、一つ、贅沢を用意する。この種のホテルが売りにしている天然温泉の大風呂である。
長時間のドライブ、部屋のユニットバスではその疲れも流し落せない。窮屈である。ここは体をゆったり出来る大風呂が入り用だ。
早々とハイウエイを下り市街地方向に車を切りその街の駅に向かう。 宿に入る前、今宵の飲み処の探索を始める。この街の繁華街を見つけ出し丹念にその周辺をくまなく走らせ、大まかなこの街の有り様を頭に入れ、今宵のホテルに向かう。
いよいよ、今宵の夜を慎重に丁寧に謀る。夜の食を疎かにすることは旅を放棄するにも等しいのである。
先ず、ホテルのフロントで街の地図を手にいれ、ついでにオススメの店をひとまず聞く。これで、この街の大まかな有り様が頭に入れ、いよいよ夜の探訪である。
タクシーを拾う。近くても拾うのである。タクシーの運転手こそがこの街の夜を知り尽くしたコンシェルジュである。
ここで、もう一つ念を入れる。先ずタクシーを酒屋へ車を走らせ、地酒の情報を仕入れるとともに、さりげなく、地元の人たちの行きつけで、しかもいい酒を納めている店を聞き出すのである。
そこでいよいよ店探索である。運転手が勧める店と酒屋が勧める店が重なる店にとタクシーを走らせ、店構えと店内をちらっと覗かせもらいながら、勘を働かせ鼻をきかせて店選びをするのである。間違いのない店選び。
ネットで見つけるのとは一味も二味も違う店を見つけ出すことが出来るのである。
旅人が行く店でなく、地元の人たちがひいきにしている、地元の人たちが待つ店に辿り着く。強く望み、感覚を研ぎ澄まし思いをめぐらせことで、初めて幸せを享受できる。そうすれば、旅は豊かで多彩で幸せに満ちたものになる。
手間暇かけて、ようやく、たどり着ける旅先での幸せな夜なのです。
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