一幸62。無形文化遺産“和食”をランチで食う。

久しぶりに、味噌汁をぶっかけ丼飯をかき込んだ。

豆腐とあさりのむき身、それに細切りの大根とネギと、具沢山の味噌汁を残りご飯に上にぶっかけて食べた。まだ働いていた時分によく通っていた定食屋で、鯵フライランチを摂った時のはなしである。

ワインを夜のお供として以来、和の食を自宅で食べる機会が少なくなった。このランチを和食というには、いささか、無形文化遺産の和食には失礼な話だが、だが、この鯵フライランチで和の食を食べたと言えない話ではない。

このランチには、和食の基本が凝縮されている。

日本は温帯湿潤の亜熱帯気候、日本列島、その背に連なる山脈に豊かな雨を降らす。その雨は山々の木々を養いながら、地中深く浸み込んでいく。

やがて、その雨は地中の豊かな滋養を頂き、山里で地中から滲み出る。その水は、水田では米を育て、田畑では胡瓜と大豆と大根やねぎとキャベツ、それに菜の花も、その恩恵を受け見事に育つ。

そういった役割を果しなが、その滋養に富んだ水も、やがて海にたどり着く。

海への入り口に広がる干潟には、あさりが生息し、その先の豊穣な海では昆布、鰹、鯵が生命を育む。

ご飯の米、味噌の大豆、その出汁の昆布、鰹節。その具と香の物の、大根とネギと胡瓜、それに鯵フライに添えられたキャベツの千切り、菜種油と鯵である。

正に、“鯵フライランチ”は、日本列島の恵が凝縮された食べ物である。素朴ながら、これこそが“和の食”の基本型、一汁三菜。

ユネスコ無形文化遺産和食は、その背景にある豊かな日本列島の自然の営みが慈しみ育てたものなのである。

ただ、残念だったのは、旨い米と旨い水とくれば、日本酒を忘れるわけにはいかない。日本酒が加われば完成した“和の食”での昼食となった。

だが、さすがに、いくら引退した身と言え、働く若者たちの横で、お昼から酒とは、いかにも節操がなさすぎると自制したのである。

今では、懐かしい久しぶりの幸せな鯵フライランチである。

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