一皿18。ルッコラ。

真夏のゴルフ場。

あまりの暑さに茶屋に飛び込むとバケツにあふれる氷と真っ赤なトマトが目に入る。1個手づかみにして、冷たいトマトを口一杯に頬張る。甘さに混ざって、大地と太陽の味が口に広がる。

そんな、30年もの昔、伊豆の名門ゴルフ場での遠い夏の思い出が一瞬よぎる。そんな野趣のある力強い野菜に出会った。

20年近く付き合いのあるシェフがオープンさせた、今評判のフレンチレストラン、西麻布のルブトンで、供されたルッコラである。

昔、野菜もこんな味がしていた。懐かしい野趣がある野菜である。ほろ苦さ。渋み。勢い。土の匂い。緑をバリバリと噛み砕く。

しっかりと正しいと旨いルッコラである。

本来、野菜は卵と同じように、最も距離の短い食べ物。台所で土を、糞を洗い流して口にしていた。そんな野菜が、今は、噛み砕くこともなく、口の中で溶け飲み込まれる程に堕落した。

そう言えば、トマトは野菜から堕落してフルーツ、そうして、野菜が今はサラダと西洋の名前を冠してやわらく、上品なものになっている。

そんな昨今に、本物の野菜との幸せ出会いをさせてくれた見事なお店のルッコラである。

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