白金トンネル手前を曲がると坂道がある。
その坂が、若者たちを魅了させている店が立ち並び、夜遅くまで人通りの絶えないプラチナ通りである。その坂道の後背には、都心屈指の高級住宅地の池田山と白金が控えている。
そんな坂道を上がりきる手前に、1985年創業の下町風情を残す店構えの蕎麦屋 あの利庵がある。
この店は、いい意味でも悪い意味でも、こうした高級住宅街の住民が長年慣れ親しみ作り出した風情を醸し出している。この店が出す蕎麦は、店続きの隣で引かれた麦粉で煉られたもの。
確かに、こだわりを感じさす良い蕎麦を出しているが、こうも長年に亘りご近所さんを惹きつけているのは、その店が出す酒肴の多彩とその旨さにある。
もし、この店にカウンター席が用意されていれば、蕎麦を〆に用意している小料理屋である。壁に掲げた短冊のメニューが、より一層そう思わせる風情を強め、その趣を添えている。
蛇足ながら,言い添えずにいられないことがもう一つある。勘定時の風景が俄然良い。
創業当時から使われているという年季が入った、古民家風の家具の下の引き出しが金庫代わりになっている。従って、当然、この店の支払いは現金のみである。
さて、今宵は、辛口〆夕張りのお供に塩茹でした大粒の空豆を選んだ。春の空豆に添えた紅葉が見事にこの季節に相応しい酒肴にしていた。
春と深秋を一度に味合えるそんな幸せな夜となった“あて”である。
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