一皿20。鰻丼 。

鰻ほど、時を置かず食べたくなるものはない。

私の鰻は現役時代の接待で磨かれた。年一度、暮れの接待に、私が選んだ先は決まって鰻料理亭であつた。

しかして、東京周辺の鰻料亭は全て一度ならず訪ずれ食する機会に恵まれた蒲好きの私にとっては、正に、一挙両得の役得につくづく感謝、深謝の今である。

だが、残念なことも有った。

その一つが、こうした店では仕方ないことだが、前菜が椀盛、刺身、煮物と、盛り沢山であったことだ。鰻を食べる時は、肝焼きと香の物で一杯飲みながら、今か今かと鰻の登場を待つのが嬉しい。

もう一つ、鰻とくれば、丼。決して、重ではいけない。

二、三切れの炭焼きの香りが染み込んだ蒲焼を、秘伝と称するタレが染み込んだご飯と一緒に一気にかき込む。そした鰻丼の旨さが心情の鰻だ。だが、鰻料理亭とくれば蒲焼は重におさまり、ご飯は別の器で供され、決して丼の出番はない。

今、通う店は、昔、お世話になった店から暖簾分けした親方一人と頻繁に替わるお手伝いさん二人で切り盛りしている、青山墓地近くにある鰻屋である。ここでは、前菜は肝焼きで、鰻は丼である。

今も月に1度、鰻を楽しんでいる。幸せが丼の隅々まで染み込んだ美しい鰻丼である。

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