一幸73。京の定宿と東山魁夷。

また、京都に来てしまった。

夕日が鴨川に映えるまだ夜を始めるには早い夕刻、京の定宿としてかれこれ10年近くなる京都ホテル(オークラ)を出る。

鴨川の堤沿いをそぞろ歩きを楽しむ人たちに混じり散歩し、馴染みの小料理屋のカウンター席に着く。

京を訪れた時には幾度となく立ち寄っている店。決まって頼む酒肴と酒を手順良く出してくれても、そろそろ良い頃だと思うのだが、京ではなかなかひと縄では行かない。一見客であり続けているお気に入りの京の店である。

小一時間もすれば、旅先の酒は程よい酔いにさせてくれる。少し頬を赤らめながら、東山にかかった真っ赤な月を背に受け,旅人たちで賑わう高瀬川沿いの道を歩いてホテルに戻った。

こんな快い夜を気軽に味わせてくれるこのホテル。鴨川側の上層階の部屋を頼むのを常にしている。

その窓からは、鴨川辺沿いに人が家路に急ぐ京の夕べの日常が見てとれ、東山が夜の闇に覆われる深い夜になると、読みかけた本をベッドにおけば、寺の大屋根を囲むように規則的に並ぶ家々が闇に包れ、その家々からは小さい明かりが漏れくる。

東山魁夷が見描いた年暮れるが目に飛び込んでくる。
美しい河、その街を囲む山がある。その中に、京の人々の日常が垣間見ながら、旅先の幸せな眠りに落ちる。

コメントはこちらから

コメントの表示が遅くなる場合がございます。