まだ、戦場で踏ん張っていた時代の朝。
家での朝は忙しい時間が流れていた。その朝食は、手間と食材の無駄を極力抑えたシンプルなものを常とした。
だが、出張先のホテルの朝食は、その対極のものを求めることが許された。食材も手間の無駄も厭わない朝食を求める。とことん、合点がいくものを期待した。
出張先の朝は、日常と違い余裕のある朝を持つことが出来るもの。その朝は、ゆっくりと眠気が去る。そんな覚醒を待つ余裕がある。そうして、朝食は、朝の静寂なかで、心地よい気怠さを少し残した体を、終わる頃に目覚めが来させるのが、良い朝食であった。
出張先のホテルの朝食は、静かな完璧なサービスを求めることになる。
当然ながら、家庭の匂いを持ち込む味噌、醤油、魚、漬物などの匂いから離れるのが順当な選択となる。
さらに、朝食を餌場としたブフェ・スタイルの朝食は、避けなければならない。過剰な食材を飾りならべた餌場に、物欲しく皿を持たせその上、列すらも作らせる。
人の品性すらも卑しくさせるブフェ・スタイルの朝食。もっとも罪なことは、静かな目覚めを願う気持ちを台無しにして、一気に眠気を奪う忙しさとその騒がしさである。
しかして、選んだのは。
朝日の眩しい光が差し込む窓際に席を取る。2人掛けのテーブルなどは論外。大きな窓に45度に据えた四人掛けの真っ白で清潔なクロスがたっぷりとしたテーブルに、新聞を片手に、柔らかな朝の光を背にしてゆったりと一人で座る。
季節の花が一輪、真ん中に置かれているテーブルには、胡椒、塩、砂糖が銀容器に納められている。少し大きめのホテルのイニシャルが刺繍されたナプキンが、銀のリングに丸く収まっている。その横にはナイフとフォーク。そうして、氷で表面に水滴ができた水差し。
こうした舞台があって初めて、納得のいく幸せな朝食をスタートさせることが出来るのである。
今、懐かしく、そんな幸せな朝を思い出す。
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