一旅20。ホテルので朝食。その2。

まだ、戦場で踏ん張っていた時代の朝。

覚めきれぬ眠気をお供に、朝光が差し込んでいるお決まりの窓際の席に腰を下ろした。昨夜の酒が残っている体が水を求める。よく冷えた美味しい水を飲む。それも一気に2、3杯となる。ようやく、体が目覚め,胃も動き始める。

あぁ、給仕の彼は覚えていてくれたようだ。オレンジジュースがタイミングよく運ばれてきた。絞りたての、新鮮、香りすら美味しい。口中で果肉がさわる。人手と時間をかけ仕上げたもの、流石である。

コーヒーが程よく運ばれてきた。コーヒーの匂いはとびやすい。

新鮮な味と香りを楽しむには、寸前に挽く。やはり、ここは、この朝、厳選された豆を焙煎され抽出されたものでなければならない。

いい匂いともに、トーストと卵料理が運ばれてきた。

しっかりと焼かれた少し厚めのトーストが二枚、丁寧にナップキンに包まれ温かさを逃がさない。バターは,トーストに埋め込むはめになるサイコロ型でないのが嬉しい。フランス流にスプーンで薄く削り取られバターが、氷の上に乗せられ供される。

そうして、ジャム。ワゴンに積まれた5種類のジャム大瓶詰めから、私が選ぶのはイチゴとブルーベリー。程よい量が小皿に取り出された。

さて,ミデイアム・レアの焼き加減でのサニイ・サイド・アップが、堂々とした2切れの厚めのベーコンを従えて出てきた。そのベーコン、少し焼きすぎたのが良い。旨い。

時に、ヨーグルトやサラダが添えられているが、それはいらない。葉っぱは男のものではない。栄養とか体とかとは無縁な朝である。

戦場での朝食は、戦いの体を眠気から目覚めるための朝の男の行事なのである。

こうした、完璧に満たされた朝の場と食を演出されて初めて、謂れのないサービス料が加算され驚くような額の伝票に、少し躊躇もしながらも目をつぶりサインできると言うもの。

だが、昨今、悲しいことに、ブランドと歴史を背負った五つ星のホテルが、怪しくなっている。だまし討ちに会うことが頻繁になった。

あの騒がしいブフェ・スタイルが常態となり、それに、ティーがさらに怪しい。立派なポット、温められたカップまでは、良いのだが、肝心のアールグレイがティーバックに入れられ、ポットの取手に結ばれ、ぶらりと寂しく下がっているのである。

それに、バターとジャムが小分けされたプラスチック容器で堂々と出されるようになった。この手抜きに、うんざりさせられる。

態度だけが、うやうやしいだけでは駄目なのである。この堕落したその有り様に何故かと質してみたい。

だが、昨今の趨勢と加速されるその勢いを見ると、こちらが、さっさと観念したほうが早いと思い返す。とりわけ騒ぐことでもないのである。ここは、相手側の都合を賢く察して、うなだれ、それから遠ざかれば良いのである。

今、私は東京から離れ、瀬戸内の小さな街で、旅先での朝を迎えている。久しく遠くなった気張った朝食を思い出しながら、小さな喫茶店でのモニーニングを摂る。なんの物議もない、申し分ない朝食である。

春の訪れが感じられる穏やかな海辺の朝。昨今のホテルの朝食など、どこ吹く風と、幸せな静かな朝食を楽しんでいるのである。

コメントはこちらから

コメントの表示が遅くなる場合がございます。