自分さえ確かなら、正しい服を正しく着るのが正しいのである。
やはり、オスカー・ワイルドが正しい。
外見で人を判断しないのは愚か者だけだ。
そろそろ、日常の新しいドレスコードを模索するタイミングかもしれない。
街では、ダークスーツとディナースーツしか着ない。これでは、少し行き過ぎではいる。だが、やはり、引退と同時に着始めた、若ぶったジーンズや単色のTシャツは止めにしなければならないようである。
この夏の旅、モスクワに向かう機中での出会いに始まる幾つかの気づき。
先ずは、バカンスを終えモスクワへの帰郷中の年の頃、私より心持ち若いかもしれない紳士との出会い。
明るい上品なやらかい色合いのワイシャツに麻の夏上着を、軽く引っ掛け、首元には抑えた色使いのネッカチーフが巻かれていた。
当然のように、頭には、浅くかぶった帽子が乗っている。
見事に洒落たバカンス姿。少し過ぎてはいるかもしれないが、彼には見事に合っており、考えさせられる姿であった。
もう一つの出会は、田舎の道で出会った英国の紳士の散歩姿。
都会の規律などの面倒から離れ、知り合いとの出会いも心配ないカントリーライフを楽しんでいる風。肘当てのジャケットを着てハンチング帽子をかぶっての散歩である。
田舎に入っても、矜持ある服装での変わらぬ生活。
さらに、この夏の旅で、幾度となく行ったレストラン。いずれもドレスコードのないレストランでの困惑があった。
決まって、席は嫌味なく奥詰まった隅の席に、巧みに笑顔で案内される。良い席にも、いいワインにも行きつけない。
気張ってみるが、やはり、カジュアルな姿ではダメなのだ。
時代を映すトレンドは気づかないうちに去っていく。街に溢れる流行とは、一線喫した自分の価値観で楽しむ人こそが幸せなのであろう。少し遅れ、少し窮屈だが、少し気張る。アンダーステイメント。
欠かさず地味ではないが、おとなしい、抑えたのが良いのである。誰の言葉だっただろうか。
人に敬意を持つこと、
自分を印象付けるスタイルをもつこと、
そうして、自信を持つこと。
この三つが紳士には必要。
この夏の旅、英国の良さ、奥深い、変わらぬ知恵と進歩の両輪を巧みに見せる老獪な大人の国をあちこちで見せられた。
どんな時代になろうとも、世の中が変われども、変えてはいけないものがある。この夏の旅でつくづく考えさせられ、痛感させられ、そして幸せな旅となった。
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