一景23。知恩院の大鐘。

      直径2.8メートル、重さ70トン。
知恩院の梵鐘は、奈良の東大寺と京都の方広寺の梵鐘と共に、
日本三大名鐘の一つである。

この正月を、京らしい風情の中で迎えた。

大晦日、食事を終え、子供達との思い出の “をけら火”の火縄をと八坂神社のお参りを考えたが、その混雑と雪が舞う寒さに恐れて、ホテルに早々に引き上げた。

その夜、ホテルの部屋の窓越しに、除夜の鐘が小雪の舞う中から聞こえてくる。なかでも、底冷えの京の街を揺らすように、ひときわ低く響かせる鐘を打つ音がしてきた。暮の放送で聞く、あの知恩院の鐘の筈だと、ふっと気づいた。

僧侶が仰向けの状態で激しく鐘にぶつかっていく、迫力ある様を目に浮かべながら、久しく聞き惚れた。

明日の散歩の道筋が決まった。

先ず、昨夜敬遠した八坂神社に立ち寄り、円山公園を抜ければ、あの知恩院の壮大な山門が目に入ってくる。その先は、急峻な“男坂“と呼ばれる参拝路。

その先は、巨大な伽藍をめぐらす御影堂。鶯の廊下、それに東山を借景に巧みとりれた友禅苑と方丈庭園を、少し覗いてみたいが、今日は気持ちが大鐘に気が急ぐ。

その御影堂の手前を右に折れ、宝仏殿裏の石段を上ると、あの大鐘が吊るされている大鐘楼が目に入ってきた。

この歳になっても、数多くの煩悩に振り回されている。
その煩悩は自力ではとても払えない。ひとしきり思い込め、その大鐘に向かって手を合わせ深々と頭を垂れた。

立派な正月行事に参加する。そんな気にさせられた元旦の朝の散歩であった。

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