“今宵は、あれを食べよう”。
そう決まっている夜は、いい夜である。だが、残念なことに、元旦早々に迷い夜となった。
今年はいろいろと有り、暮から正月にかけ京都にて久しぶりに過ごすことにした。
そんな京の正月の夜。
いつものであれば、お気に入りの店に、ぶらりと寄るとなるのだが、さすがに大晦日と正月3ケ日となると、そうは行かない。念を入れ早くから予約を取り付けていた。
元旦の夕は、ホテルでも悪くはないと考えホテルに任せにしていた。
ホテル内のレストランでの元旦。考えれば、わかっていた筈。当然、コース料理のみであった。
一様に作られ料理、流れもタイミングも、それに量も、一人一人に気遣いが届かない。
丁寧に予約を取り消し、馴染みとまではいかないが、気心の知れた店での夜を選ぶことにした。
小料理屋、割烹は、なじみ客で手一杯と早々に諦めた。
あと、思いつくのは、幾度となくお世話になった“天祐”の天婦羅。残念ながらコースだけとこと。いつものカウンターで好きなものを少々が叶わない。
最後の頼みの洋食や“一養軒”は、電話がつながらない。どうやら、さっさと正月休みと決めたようである。
いずれも、空振りとなる。
そこで、当てがあるわけではないが、一先ず四条河原町近辺に出かけた。元旦のはやいだ賑やかな商店が抜け、祇園に向かい、路地に迷い込む。だが、探しあぐねて南座向いの鴨川傍まで逆戻りした。
そこで、モダンでハイカラなビルに“菊水”との看板が、目に入ってくる。この菊水、創業100年を越す老舗の洋食レストラン。
一度は覗いてみたかった“菊水”。元旦らしい、幸せな出会いをした。恐る恐る、席を求める。ラッキーなことに30分少々の待ち時間と言う。
暖をとったりメニューを眺めている内に、1階の奥詰まった席に案内された。そこからは、店内がよく見わたせる。
着物姿の3人の奥さん連れ、晴れ着の子供二人とご両親の賑やかな家族連れ、一人、酒を手にしている初老の紳士、観光客らしい若い二人連れと、その賑やかさは、過ってのデパートの食堂を思い出す懐かしい情景である。
そうなると、我らの注文も昔に戻る。ビールは当然として、クリームコロッケ海老にパン粉を付けて揚げるエビフライ。それぞれにお皿に盛られたライスが付く。
こんな夕食を京の元旦の夜に摂る。懐かしい昔とつながる一味も二味も違う元旦の夕べとなった。
“迷いめし”も悪くない。
今年が恵まれた一年となる予感させる、そんないい夜に仕上がった。
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