一景26。懐かしい背広姿。

古都に、また出かけた。

座席に身を沈め、静かに車窓から正月の街に目線を泳がしている、そんな背広姿の老紳士をバスで見つけた。

年始参りには、“これを着ると決めている”と、迷いもなく決めている、そんな律義さを感じる背広姿であった。

祖父や父の思い出に繋がる、懐かしい姿である。

祖父は、いつも和服姿であった。だが、碁を打ち行く折には、ステッキを持ち背広にマントを羽織っていた。

親父となると、ステッキとマントは無くなるが、オーバーコートと窮屈そうな三つ揃いの背広。それに、外せないのが中折れ帽子、それが父親の外出時のプロトコールであつた。

そんなことを思い出し、急いで、そうっとスマホで納めたのが、この一景である

我が身といえば、旅先の気軽さもあってスニーカーにジーンズ、分厚いセーターにダウンジャケットと気楽なものである。なんとなく、居心地の悪さを感じさせられる。

そう言えば、すっかり、ジャケット姿で出かけることがなくなった。

少し気張ったレストランや、ドレスコードの厳しいゴルフ場で羽織るだけ。日常からは消え去っている。そう言えば、フォーマルなパーティーからも、近年すっかりお呼びが、かからなくなっている。

古都には、今の時代に合わせる、むき出しの、“これよし”というものがない。

私が繁く訪れる古都の魅力は、決して神社仏閣だけでなく、その途中で出会う
   こっそり隠れている街並み。
   その路地奥の家々から漏れてくる灯。
   そうした家前の路を箒かきするエプロン姿のお母さん。
   着物姿で出かけるご婦人たち。

こうした、ご近所さんたちの日常生活に見せる風景にある。そんな出会を求めての訪れである。

何か、都会に住む人たちが、急ぎ過ぎ捨てたものを思い出させる、穏やかなそんな古都。

私は、そんなのんびりした風景との出会いがしてく、無性に京に行きたくなる。

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