旅先の夜は、特別である。
何事も終わりかた一つで喜びの記憶を創る。
旅も、その一日の締めのディナーで、その街の印象が決まる。
そんな夜を求めて、今宵もあの街この街と彷徨する。
Silversea、モナコ客船でのクルージング。
3,4年に一度は思い出しては、友人夫妻を誘い十日間程度のクルージングを楽しむ。
私が乗るクルーズ船、Silverseaは、2万トンを少し越す程度の小船、対岸の街の光が見て取れるほどの、大陸とは程よい距離を保ちながら航海する。
そんな航海でのハイライトは、クルージング最後の夜、男性はタキシード、女性も思い切って着飾ってのロングドレスと、正装で望む、シャンパーニュで祝う晩餐会である
イタリア、シシリア。
すっかり日も落ち人影が人一人も見えぬ薄暗い、優しく風が通り抜ける路地を入る。その先に小さな灯が見える。
そこが今宵の餌場である。
地下におり行くと眩しい光で迎えられる。
ご存知のように、シシリアは漁村。
大籠に盛られた生きの良い魚がテーブルまで運ばれ、今宵の魚とその調理法を選べと、コックが早口で催促する。
当然、それに合う、地酒ワインも添えられ、テーブルに運ばれてくる。魚好きの私には、たまらない夜となる。
フランス、ブロバンス。
断然「!」マークが踊るデイナータイム。
こういう時を求めての旅である。
幸せな夜との出会いを願い、旅の計画に念入りな時間を過ごす。
フランス人の友人宅で旅支度を解く。
モナコから電車でリヨンに向かい、その駅で少し大きめの車をレンタルし、プロバンスをあちこちと田舎町を5時間走り、友人宅に着く。
小高い丘の上にその友の夏の別邸がある。その隣がその友の兄が経営する小綺麗な洒落たホテル。私たちの宿である。
着いたその夜、友の家で夕食を頂く。我ら家族以外に彼の香港時代のイギリス友人夫妻が加わっての食事である。
地下のメインダイニングルームで、当然のように彼は肉を焼く。
それも葡萄の木を暖炉に焚べ、その薫りを肉に塗し、ダイニングルームにも満たす。 思い出の夜を見事に演出した彼に、喝采である。
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