一景34。古都の路地。

歴史を背負うヨーロッパの街では、迷路まがいの魅惑的な路地に出会う。

スペインの小高い丘に広がる古都トレド、海の上に作り上げた都ベニス、アドリア海沿いの古城壁に囲まれたモンテネグロの旧市街と、挙げ始めると切りがない。

私の旅は、目的地について車を降りれば、名所旧跡や神社仏閣などは忘れて、街歩きとなる。

そんな街歩きも、気付くと路地に迷い込んでいる。私を旅に誘い出すのは、畢竟、路地歩きの楽しさである。

日本の古都、奈良と京都
この二つの古都の路地は、対照的である。

久しぶりの奈良。新薬師寺の十二神将に無性に会いたくなり、住宅街から一筋入った路地に迷い込む。

晩秋の夕暮れ、人の気の消えた路地を挟んで、壊れ傷んだ土塀が続く。その土塀の上には、たわわに実った柿の木が覆いかぶさっている。

悠久と思わせる時間をかけ、自然の力を借りて仕上げたこうした路地が、奈良の路地である。

その一方、京都の路地は、人の手を掛け計算尽くし完成させた、しっかりと名をもらった路地。

夕陽が大文字山に落ちる頃、歴史ある茶屋の外格子から、灯りが漏れ始める。敷き詰められた石畳に洩れ灯りが落ち、京の風情に輝きを添える。

祗園、切り通し小道である。

白いエプロン姿のお女将さんに掃き清め水打ちされた、まだ人影もまだらな路地。
そんな路地を挟んだ店々から、旅人を誘うかのように提灯が灯され始め、夜の賑わい気配が漂いはじめた。

先準町、先斗町通り、である。

人の手も心もが入った、他の街では決して出会うことのできない、京都の精緻な路地。

今宵の夜を探しに、通り抜ける風に背を押さるように、寺町の小路に迷い込む。行き着くところも路地奥、酔いどれ横丁である

薄暮の中に浮かぶ旅先の路地奥の店の灯りを見つけた

そうこうしているうちに、旅たちが1日1日と伸びてしまう、私の古都への旅である。

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