一旅32。顔見知り。

よく訪れるようになった京、その街で顔馴染みと出会う店ができた。

ホテルでの朝食は気忙しく好きになれず、決まって向かう店がある。ホテルから歩いても5分とかからない、寺町の進進堂である。

パン屋に併設された喫茶ルーム。京の日常らしい、ゆっくりした時間が流れている、旅先の朝に相応しい店である。

その店、土日など休日は旅人たちで様子が一変するが、平日の開店した直後の7時半ごろは、落ち着いた日常の姿を見せる。

今朝も、当然のように、お気に入りの指定席につく。
奥を見ると、いつもの席についている数組の顔見知りが目に入ってきた。

私の奥手前の席には、店員を捕まえてはお喋りを楽しむ、 商家のご亭主らしい初老の男性。
さらに、その奥には、書類を広げ、いつも下調べに余念がない教授風の中年男性。
その横の長椅子の端には、食べることを忘れたようにお喋りに  余念がない西洋人夫妻。
その横の席には、いつも大人しく、一人、本を広げコーヒーを啜っている三十代の女性。

今朝、窓際の席で、幼い子が手で皿を押さえ、ソーセージとフォークで格闘している家族連れが、目に飛び込んで来た。

顔見知りさんたちも、成り行きが気になるか、心配そうにチラチラ目を配っている。

この騒動が落ちついたタイミングを見て、店長がひょっこり挨拶に来て、無駄口を叩きながら、今回の旅先を尋ねた。

いつも、地図を広げて朝食を摂っている私に、興味を持ったのか、いつしか親しく挨拶するようになった。

旅の幸せは、初めての驚きの風景との出会いだけでなく、こうした加減の人の再会にもある。

旅を終え、いつもの日常に戻っても、ふとした時に、こうした人たちの顔が、その人たちが住む街ともに、生き生きと浮かび上がる。

天気も申し分ない。
炎天好日、良い旅立ちになりそうである。

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