思い出につながる一枚のトースト。
香ばしく焼き込みバターをしっかり染み込ませたトースト、その上に半熟玉子が乗せられている。

その卵にナイフを落とす。
とろっと、黄身がトーストの耳を伝わって皿に溢れる。
私の、幸せな朝の儀式である。
私にとって、量もぴったり。少し小さめの厚切りトーストがバターと馴染み、旨い。
客足が途絶える朝と昼の合間に覗き、気の合っている彼女の笑顔に誘われ、決まって、このトーストを紅茶と一緒にお願いする。
この店、DEAN & DELUCAは、他のカフェとは趣を異にしている。

店内いっぱいに、果物、野菜、缶瓶詰めフード、ワイン、チーズ、ベーカリーの食材をはじめに、キッチンウェアをも棚一杯にぎっしり並べている。
その脇に軽い食事を摂れるコーナーを用意している高級デリショップ。
このDEAN & DELUCAは、私の若い時代の思い出と重なる、“所と時代”に誕生した店でもある。

私が、NYに飛んでいた現役時代、仕事から解放されるウィークエンドには、Blue Noteジャズ クラブに、お気に入りのバンドが舞台に立つ折など、駆けつけていた。

その時代、ベトナム戦争の反戦を叫ぶ40万近くの若者たちが押し掛けたNY郊外のウッドストック・フェスティバルから、数年しか経っていない。
このDEAN & DELUCAは、Blue Noteから遠くない”South of Houston” SoHoに、そうした反戦運動も収まりhippieたちも姿も少なってきた、1977年に開店。

新しい時代の到来を見事に読み取った、革新的な店である。
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