一旅36。台北。路地裏歩き。

注目の大統領選挙、その最中に台北にいた。

この台北市、260万の人口を抱える台湾(中華民国)の首都。今も、台湾海峡が騒がしい。

台湾、中国大陸とは、台湾海峡を挟んで130km。マッハ2.0戦闘機では、3分強と一飛びの距離にある。

1997年、香港が「一国二制度」を維持し、「高度な自治を50年間認める」条件で、英国から中国に返還された。

だが、中国の影が、約束の50年の期間を待たずに、年々色濃く覆い始めている。

その香港、人口が多く、狭い。
嘗ての香港には、怪しげな路地があり、その怪しさに惹かれ多くの旅行者が訪れている。

その代表が、増築を繰り返してカオス状態となった、空に伸びる縦の路地があると言われた、魔の巣窟の九龍城。一度、迷い込むと生きては出て来られない路地が、無尽に走っていたスラム街である。

その閉塞性と雑多感に惹かれて、私も香港に訪れるたびに覗きに行っていた。

今回の台北市への旅も、路地歩きである。

台北も都市化が進み、魅惑的な路地が姿を消してしまったが、いくつかは当時の面影を残している。

その一つが、九龍城と同じように空に伸びた縦の路地が、縦横無尽に走る九份の老街

この老街の路地は、狭く、緩やかな山の傾斜に沿って空へと延び、その路の両側には、赤い提灯を飾った小さな店が並ぶ。

映画千と千尋の神隠し」の舞台が、この九份のカフェをモデルにしたと言えば、その華やかさとその幻想性が想像できるであろう。

士林夜市も外せない。

ここでの夜市、台北一である。
台北最古の寺、龍山寺近くの長い歴史のある下町のアーケード街に、500店舗以上の屋台グルメからユニークな雑貨店が競い合う。

嘗て訪れた時は、アーケイドの両サイドに怪しい雰囲気をしていた路地網の目のように張っていた。だが、今は、明かりが灯された店舗が軒を連なれる、賑やかな路地商店街に変貌していた。

最も期待していたのが、赤峰街

この街、デパートが立ち並ぶ中山駅に沿う様にある下町。
古くからの町工場や民家が立ち並んでいた街だったが、今は、お洒落な店が並び、若者たちの人気の街となっている。

だが、流石に、嘗てディープな路地で名を馳せた街、表通りから入り込む路地奥に、その名残の家屋を見っけた。

その家屋、修繕を繰り返したトタン屋根がプラスチックの波板で覆われ、壁のモルタルは削げ落ち、無数の電線が絡まっている。

その近辺の家々の壁には、屋外機や壊れた物や普段使わない物品が捨て置かれ、壊れ錆び果てた自転車やオートバイが打ち捨てられていた。

だが、この裏寂れた家屋も、それほどの時も経ずして打ち壊され、明るく灯した店になり、若者たちが押し寄せる賑やかな路地にまぎれこむに違いない。

ふっと、先日訪れた谷中で見かけた風景が思い浮かんだ。

今や懐かしい銭湯、その銭湯帰りの老人が湯桶を抱えて裏通りに消えた。そんな姿とこの路地とが重なった。

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