一旅39。男一人旅、車窓を楽しむ。

初老の男が、車窓に映る景色にぼんやりと目を向けている。

初夏のある朝、“あぁ、退屈だ”と思わず声にした日、珍しく、車を捨て電車での旅に出た。その折に、出会わせた一景である。

同胞達が引退しての日長を持て余し戸惑い、旅に出始めたのだろう。最近、旅先でこうした一人旅の同胞によく出会うようになった。

私の日中は、スタバとかアスレチック・クラブで過ごし、その後はTV見ながらのごろ寝となる。そのTVで流れるスポーツニュースは、当然ながら、そのハイライト・シーンとなる。

早送りでは、スポーツの面白味が伝わってこない。

そう言えば、投手は、投球に1球に20〜30秒ほどを費やし念入りに打者を打ち取っていたが、今は、一球15秒ルールで、TV画面の片隅でストップウオッチが、忙しく時を数え始めた。

日長な時間にあれこれと詰め込み、すべがこの調子である。
“ちょっと、ゆっくりやろうぜ”と、思わず声に出したくなると言うもの。

そんなTVから逃げ出し、序ノ口の取り組みが始まる早朝に、国技館に出かけ、まるまる一日のんびりと、砂被りで相撲観戦をとさえ思い始めている。

だが、それほどの相撲好きでもない。

やはり、旅に出るのが良い。
それも、グループの旅人と重なる曜日や時間帯を外し、地元の人たちの足、廃線をかろうじて免れた電車でたどり着く、そんな田舎街への旅が良い。


そうした電車で、彼のように、車窓に映る里山をみるでもなく見流す。

そんな旅のゆったりした流れの中に身を放ち、その夕には、宿が用意した晩飯を年老いた宿のご夫婦を相手に地酒を楽しみ、幸田文の本を抱えて寝床に潜り込む。

せっかく、永らえた命。
ゆっくり流れる時間の中に深く身を沈め、残り少なくなった月日の去り過ぎる様を、車窓から眺めるようにゆっくりと味わうが良い。

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