火がご馳走の夜。
“家で”と手を抜きそうだったが、冷たい風が吹く夜に相応しい大きな竈を据えたレストランに出かけた。

この店、行きそびれていると店主から誘いの電話が入るほど、しっかり馴染みになっている。
大通りから一本入った住宅街の入り口にあり、週末などは近所の子供連れの家族や、近くのホテルからの海外客も顔を見えるなど、ほどよく賑っている店である

その店主が私たちに用意してくれるカウンター席、その前の少し奥には、400ー500度の高温のピザ窯が据えられている。本格的なピザの店ながら、ワイン・ストックも多く、それに一工夫された前菜も数多くあり、私には外せない店である。
嘗て、雪に埋もれた道を経て辿り着いた山奥の民宿で、囲炉裏を囲んで食事をしたことがある。その夕方、薪がくべられ赤々と燃える囲炉裏に案内され、我らの夕食が自在鉤に吊るされ調理された。

囲炉裏を囲んでの食事、“火がご馳走”の寒い旅先の夜の思い出がある。
この店のドーム型の窯は、その囲炉裏と同じ様に薪が燃え盛りその放射熱が微かに顔を撫ぜる。その窯の中では、隈なく熱された空気が対流し、その遠赤外線がピザの胴内部まで火を通し、木の風味をピザに移す。
こうした2、30秒ドラマが、外はカリカリそうして中がモッチリとした食感のピザが仕上げる。

この夜の仕上げも、いつもの程よい大きさのクアトロ・フォルマッジを選ぶ。4種の塩気の味合いのチーズの熱々のピザに、蜂蜜をたっぷりと塗り込む。
みつの甘さがチーズと絡み合い、濃厚で芳醇な味わいの私の定番のピザである。
寒い冬の夜には、囲炉裏と窯は大袈裟に言えば太古に繋がる“火がご馳走”である。

帰り道、酒と窯で熱った頬を、気持ち良い寒風が打つ。
見上げた夜空には冷たい月の光が夜道を照らしていた。
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